サイゴン人は中国人が嫌い。そして中国人と同じぐらい嫌いなのは韓国人ではなく○○○人
結論から書くと、サイゴン人が中国人と同じかそれ以上に嫌いなのは、「北部人」です。
本記事では南北ベトナムの根深い対立問題について取り上げます。
【初出時「ハノイ人」と書いていましたが、その後の研究により「北部人」がより適当と判断し修正しました】
サイゴン人は北部人が嫌い
ホーチミンではいつも、バックパッカーストリート(ファングーラオ)に隣接するデタム通りに滞在しています。
宿はいつも同じで、初見で見つけるのは困難な路地裏の、全2部屋の小さな安宿に泊まります。
ここは60代後半のおばあさんがほぼ一人で管理しています。
この大家さんが好き嫌いのはっきりした人で…。
国籍や人種による宿泊拒否は他国では考えられない差別ですが、ベトナムではそこそこあります。
以前泊まっていた宿では、アフリカ系黒人は一律宿泊拒否でした。
アフリカ系黒人が来ると、
「今日は予約で満室です」
とすげなく断るのです。
明らかに「VACANCY」という札が下がっていても堂々とそう言って追い返していました。
今の宿の大家さんも、アジア系旅行者が来るとまず国籍を確認します。
中国人だと、
「1泊30米ドル」
などと言って、宿泊しないように誘導しているようです。
「ハノイ人が嫌い」というのは、ベトナムをよく知らない方には理解できないかもしれません。
しかし、ホーチミンに住んでいると、北部嫌いのサイゴン人によく出会います。
ホーチミンとハノイは経済格差が大きく、一人当たりGDP(2015年)はホーチミン5,318米ドルに対してハノイは3,553米ドルと、実に1.5倍近い開きがあります。
よって、首都であるハノイからホーチミンへ職を求めて移住する人たちも少なくありません。
余談ですが、この経済格差はベトナム戦争に起因するものです。
北ベトナム(ハノイ)は米国による空爆でインフラが徹底的に破壊されたのに対し、南ベトナム(サイゴン)は物質面では軽微な被害で済みました。
さらに、北部では1990年代前半までは、中国の戦車が通過できないよう中国国境につながる道はあえて整備しなかったそうです。
経済改革後、インフラが整った南部が経済発展の中心となったのは当然の成り行きと言えるでしょう。
現在でも、南部の潤沢な税収が吸い上げられ、北部のインフラ整備に使われているというのがサイゴン人には不満なようです。
また、私がホーチミンからハノイ方面に旅行に行く際は、サイゴン人たちに心配と忠告をされます。
「ハノイは悪い奴が多いから気を付けろ」
と。
実際のところ、ハノイのほうが危険とか嫌な人間が多いという感じは受けませんが、サイゴン人としてはそういうイメージを抱いているようです。
そういうわけで、大家さんもハノイが嫌いなのです。
一方で大家さんは米国は好きだそうです。
*無料というのは記憶違いと思われますが、それほど良い時代だったという思いの反映でしょう。
映画で見る南ベトナム
「米国時代は良かった」というのは広く共有されている認識らしく、映画内にもそれが現れています。
2017年公開のベトナム映画Cô Ba Sài Gòn(英題:The Tailor, 邦題:仕立て屋 サイゴンを生きる)の予告編です。
1969年のサイゴンから、仕立て屋の娘が2017年のホーチミンにタイムスリップしてしまう…というストーリー。
この映画で注目は1969年の描写です。
1969年というと、ベトナム戦争真っ最中なのですが、映画内のサイゴンはファッショナブルかつ先進的な都市として描かれています(予告編で確認できますのでご覧ください)。
「これは史実とかなり違うんじゃないか」
と思ってSNSで聞いてみたところ、何人かのベトナム人から回答がありました。
*ベトナム戦争終結は1975年、南北統一は1976年。
Cô Ba Sài Gònはベトナムで大ヒットしましたが、1969年の描写に関する目立った批判はなかったようなので、ベトナム人の間で
「南ベトナム時代のサイゴンは豊かで先進的だった」
という共通認識があるようです。
ベトナムはアメリカに勝った国?
よく「ベトナムは米国に勝った国だ」なんて言う日本人がいますが、米国に勝ったのは北ベトナムであって、南ベトナムから見ると米国は資本主義の豊かな生活を提供してくれる庇護者でした。
その米国を追い出し社会主義とかいうよくわからない思想を押し付けてきたのが北の政府だったわけです。
米国影響下のサイゴンで生活していた人々は、南北統一でガラリと人生が変わりました。
前述の大家さんのように親族が処刑されたり、財産を没収された人は多数存在します。
彼ら「対立第1世代」はいまだ存命であることに加え、第2世代、第3世代にも嫌北感情が継承されています。
ベトナム戦争終結から44年、精神的な南北分断は依然として続いていると、私は思います。
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