まんが風ベトナム昔話~ヤモリと借金取り~

2019年6月18日

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ベトナムにも代々伝えられる昔話があります。

昔話というものは民族の理想や自我が反映されることから、その集団を知る手掛かりの一つとなり得ます。

ベトナムの伝統精神を考える上で、昔話を読むことは必要不可欠と言えるでしょう。

今回はベトナム文化に興味がある方のため、ベトナムの昔話を紹介いたします。

それではどうぞ。

ヤモリと借金取り

ある日、貧しい百姓夫婦の家に借金取りがやってきた。

しかし夫婦は不在で子供が一人遊んでいた。

おい坊や。お前のお父さんはどこにおるんや?

…..(無視)

お前のお父さんはいつも逃げて金を払わん。
たまにつかまるとアレコレ言って先延ばしにしよる。
さっさと返事せんかい。
お前のお父さんはどこや?

…父さんは生きた植物を切って、死んだ植物を植えに行ったよ。
母さんは風を売り、箸を買いに行ったよ。

どういうことや?
全然わからん!

(笑)

頼むから教えてくれ。
お前のお父さんお母さんは今、何をしとるんや。
言ってくれたらお前のお父さんの借りてるお金はお前にやるわ。

おじさん、冗談でしょ。
借金を棒引きなんて。

いやいやホンマや。

証人がいないと信じられないよ。
証人がいるところで約束してくれたら、父さん母さんのいるところを教えるよ。

(度胸あるなこのガキ…)
それなら、そこの柱におるヤモリが証人や。
それでええやろ。

わかった。あのヤモリが証人だね。

せやから二人がどこにおるんか教えてくれ。

父さんは長い茎を切り取った田んぼに苗を植えに行ってるから、「生きた植物を切って、死んだ植物を植えに行った」。
母さんは扇を売って、扇を作る竹の棒を買いに行ったから、「風を売り、箸を買いに行った」ということだよ。

….

借金取りはしばらく考えこんだが、何も言わず帰っていった。

数日後、また借金取りが夫婦の家にやってきた。

今日こそ返せや!

もうちょっと待ってくれませんか。

いつもそれやないか!

父さん、あのお金はこのおじさんが僕にくれたから、もう返さなくていいよ。

何を言うてんのや。
誰がお前に金をやると言った?

でも証人がいるよ。
どうしてウソつくの?

もうええ、そこまで言うなら裁判じゃ!

数日後、百姓は裁判所へ呼び出された。

裁判官殿、私は30銭借金しました。
しかし私はいずれ返済するつもりです。
ところが私の息子は、その借金はあの方から貰ったので払わなくて良いと申します。

あのガキは自分の言ってることがわからんのや。
裁判官殿、私は金をやるなどと言っていません。
証人がいません。子供を呼び寄せて聞いてみてください。

裁判官は、すぐ子供を呼びにやった。

かくかくしかじかということで借金は棒引きになりました。

よろしい。では証人はあるか?

あります。
証人はあの人が選んだのです。
その時ちょうどヤモリが天井に貼り付いていたので、あの人がそれを指差し、あれが証人だと言いました。

ウソや!
あの時ヤモリは柱におったやろ!
天井やなかったわ!

….(ニヤリ)

…はっ!
しまった!

お前は金をやると言った。
そしてそれを言ったときヤモリが証人としていた。
お前は子供を騙そうとして逆に引っ掛かったのだ。
もはや争うことはない。以上!

こうして百姓の借金は棒引きになった。

借金取りは悔しがったが、心の中では子供の聡明さに感嘆せずにはいられなかった。
【出典:「安南の民俗」水谷乙吉 著 (育生社弘道閣, 1942年)】

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解説

「賢い子供が親を助ける」という展開はベトナム社会における理想形の一つと言えます。

現代でもベトナム人は親孝行を重視します。

テト(旧正月)のお土産として、給料1か月分の液晶テレビを買って親にプレゼントするというような話は珍しくありません。

ベトナム人から見ると日本のドライな親子関係は不思議らしく、私は年に一回しか親と会わないので、非道な親不孝者に見られてしまいます。

また、身近な生き物としてヤモリが登場するというのもベトナムらしくて面白いですね。

私の部屋にもしっちゅうヤモリが現れます。

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自己紹介宮内健吾Ⓐ、29歳の時に資産たったの1500万円でセミリタイア。

少々の労働収入と投資収入でベトナム生活を満喫していたところ、コロナ禍で仕事を失い暗転。

詳しくはプロフィールをお読みください。